【二人】

4/42

17903人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
「一緒に、来てほしいの」 「……どこに?」 口を衝いて出た言葉は、内心とは裏腹に冷静だった。 少女は僕の袖を引っ張り、同じ言葉を繰り返すだけで、他に何かをしようという意思は見受けられなかった。 「お願い」 「僕、外に出たくないんだ。だから、放っておいて」 本当は彼女と外に出たくないのだ。 その言葉は飲み込んだものの、少女は一層強く袖を握り、ついには目に涙を浮かべて俯いてしまった。 「泣かれても困る」 「……一緒に」 「だから、どこへ?」 この応酬は数分間に渡り、最終的に僕は折れた。 「待ってろ」と一言残し、僕はリビングに向かった。 ナイトメアに外出する旨を伝えようと思っていたのだが、彼はソファーの上で規則正しい寝息を立てていたため、簡単なメモをすぐに分かるような場所に置いた。 そして、部屋に戻り、必要最低限の荷物を用意する途中、僕は彼女に「名前は?」と尋ねた。 「分からない」 「自分の名前なのに?」 「みんな好きな名前で呼ぶの。リリーとかミシェルとか……研究所の人たちはモルモットって呼んでた」 それは名前じゃない、と言う否定を飲み込んで、僕は久々に外へと向かった。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17903人が本棚に入れています
本棚に追加