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「一緒に、来てほしいの」
「……どこに?」
口を衝いて出た言葉は、内心とは裏腹に冷静だった。
少女は僕の袖を引っ張り、同じ言葉を繰り返すだけで、他に何かをしようという意思は見受けられなかった。
「お願い」
「僕、外に出たくないんだ。だから、放っておいて」
本当は彼女と外に出たくないのだ。
その言葉は飲み込んだものの、少女は一層強く袖を握り、ついには目に涙を浮かべて俯いてしまった。
「泣かれても困る」
「……一緒に」
「だから、どこへ?」
この応酬は数分間に渡り、最終的に僕は折れた。
「待ってろ」と一言残し、僕はリビングに向かった。
ナイトメアに外出する旨を伝えようと思っていたのだが、彼はソファーの上で規則正しい寝息を立てていたため、簡単なメモをすぐに分かるような場所に置いた。
そして、部屋に戻り、必要最低限の荷物を用意する途中、僕は彼女に「名前は?」と尋ねた。
「分からない」
「自分の名前なのに?」
「みんな好きな名前で呼ぶの。リリーとかミシェルとか……研究所の人たちはモルモットって呼んでた」
それは名前じゃない、と言う否定を飲み込んで、僕は久々に外へと向かった。
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