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「さて、そろそろ帰る。君の目的はソフトクリームだけだったらしいし、僕もあまり外にいるべきではない」
「どうして?」
バニラが口の端にクリームをつけたまま小首をかしげた。
僕はハンカチでそれを拭ってやりながら、「この前、見ただろ?」と声を潜めた。
「この前?奈緒が死んだこと?」
「そう。池田さんが死んだだろ?誰かが彼女の死に気付いたら、警察が動く。そうすれば、簡単に僕があそこにいたことがばれる。もちろん後ろめたいことはないけど、つかまるのが落ちだ」
「見つからないよ?死体」
「どうして?」
その時、後方で子供が甲高い声を上げながら走っていった。
鬼ごっこをしているのだろう。
その声のせいでバニラの声は聞こえなかったが、唇は確かにこう動いた。
食べちゃった。
「……食べ、た?」
「うん」
「……は、ははっ!冗談だろ?」
「ううん」
バニラは無表情だった。
もともと表情がなかったが、この時ばかりは彼女がおぞましく感じられた。
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