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オレンジ色に染まる道を僕は静かに歩く。
僕の歩いた数歩後ろにはバニラがいるはずなのだが、気配が感じられないし足音も聞こえない。
「……変なの」
「何が?」
「空が、真っ赤」
「夕方だからな」
「どうして?」
先ほどまでの殺伐とした会話とは逆に、その姿に似つかわしい子供の会話だった。
そういえば、ナイトメアと最初に出会った頃もそうだった。
テレビや携帯電話など、この世界にはありふれたものを知らなかった。
“外の世界を、ゆっくりと見たことがないんだな”
「大気圏を過ぎた太陽光がチリにぶつかりまくって昼間は青く見えるんだ。夕方、オレンジ色になるのは太陽が傾くと、太陽光が大気圏を通る時間が長くなるから。分かりにくかったらインターネットで調べろ」
「インターネット?」
「……」
バニラには、きっと初めて見るものばかりなのだろう。
初めて聞いて、初めて触れて……それを彼女は今までしてこなかった。
いや、することができなかった。
バニラは物珍しそうに空を見上げたまま歩いた。
そのうち転んでしまうのではないかと、僕はたまに後ろを振り返りながら家に向かった。
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