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結局、バニラはあれ以来姿を見せなかった。
ベッドに入るまでずっと気にしていたのだが、消えてしまったのなら仕方がない。
目を閉じると、僕はすんなりと夢の世界へ落ちてしまった。
いつもと同じ夢を見た。
雨が降っていることも、交差点で信号が変わるのを待っているという状況も、何一つ変わらない。
けれど、どこか違う。
既視感と違和感があるがその正体に気付けない。
「ねぇ、知ってる?」
僕は楽しそうな姉を見上げた。
「踏み出す足が違うと、少しだけ、未来が変わるかもしれないのよ」
「……知ってるよ」
初めての出来事だった。
夢の中で返答したこともない。
今日ほど、ここが夢の中だと理解していた日はないだろう。
それに、雨に紛れて泣いていることも――。
もうすぐ姉が死ぬから泣いているんじゃない。
「……姉さん、ごめん」
姉の顔がぼやけて見える。
僕は他の《悪夢》に触れすぎて、姉の顔を忘れてしまっていたのだ。
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