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先ほどとは打って変わって静かになった。
まるで、争っていた二人など最初からいなかったかのように静まり返っていた。
でも、あれは僕が寝ぼけて見た幻ではないことを、僕の腕の中にある、片腕のもげた人形が証明している。
“……行かなきゃ……”
直感が僕に訴えかける。
僕は何も考えてはいなかった。
ただ、バニラの《悪夢》へ落ちなければいけない気がして、僕は人形の額に指を置いた。
この先に何があるかを知らない僕は一度生唾を飲んだ。
月明かりが、目の端から消えていった。
次に目を覚ますと、そこは鏡の部屋だった。
四方八方を鏡に囲まれた部屋。
見渡すと何人もの呆けた顔をした僕がそこにいた。
しばらく歩き回っていると、ここが部屋ではない、ただの通路だということに気付いた。
これは、鏡の迷路らしい。
どこに繋がっているかは分からない。
「バニラ!ナイトメア!返事しろ!」
叫んでみるが、反響するばかりで動いているものなんて、鏡の中の僕ぐらいしかいなかった。
孤独な寂しい世界だ。
ただ、そう思った。
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