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「よく分かったな、僕だって」
「あなたの足音、嫌いじゃないから」
そう言ってバニラは鏡の壁にもたれかかった。
鏡にはもちろんのことバニラが悲しそうな顔をしている。
「……本体を」
「ん?」
「本体を、あなたに渡そうと思ったの。それだけだった」
僕の部屋に来た理由らしい。
バニラは横目で鏡の中の自分と目を合わした。
僕の方を見ようとはしない。
「どうして?本体は大事なものだろ?それを、殺そうとまで思った僕に渡そうと?」
「彼を見た時思った。あなたは、彼に必要。だって彼は……」
彼は、笑っていた。
バニラは眉間に皺を寄せ、苦しそうに言葉を零した。
羨んでいる様にも見えたが、一概にそうではない気がする。
「あなたになら、私達の命を預けられる。そう思っただけ」
「……買いかぶりだ」
僕は肩をすくめて見せたが、バニラはただ、ゆっくりと自らの右腕をさするばかりだった。
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