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「腕、痛いのか?」
バニラは首を横に振った。
「痛くはない。喪失感みたいなもの」
「そういえば、人形にも腕が無かったな。どうしたんだ?」
メガネやアクセサリーを落としたかの様な会話で成立するのは、やはり僕自身が彼女を人形と認識しているからだろう。
心配していない訳じゃないが、大して慌てもしない。
「腕は取れた。彼が私に気づいた時、掴みかかって……。多分、あなたのベッドの下に」
「帰ったら直しておくよ」
「うん。私には、もう直せやしないから」
確信めいた言葉を呟くバニラは、実に落ち着いたものだった。
人形だから感情がないのだろうかと仮説を立ててみたが、ナイトメアはうるさいくらいに表情がコロコロ変わる。
だとするなら、バニラはこの事態を予期して、尚かつ、結末を覚悟しているのだろう。
「バニラ、ナイトメアに喰われる気か?」
さする腕を止め、横目で僕を見る。
そして、頷く代わりに「それが、彼の望みなら」と、迷いなく言葉を発した。
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