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「何でそこまで……ツインドールだって言っても、元は別個体だ。そこまであいつのためを考える理由にはならない」
「私は、そんな事を理由にしたりしない。ただ、私は……」
言いよどんだバニラに、僕はゆっくり近付いて顔を覗き込んだ。
顔を見られたくないのかそっぽを向くが、バニラは「私たちは、二人で一人、だから」と小さく言った。
まるで、認めたくない現実であるかのように……。
「私たちはよく似ている。人形だけ見れば見分けもつかない。似ていないのは……区別をつけたのは中身だけ。この姿だけ」
「区別をつけた?故意に?」
「そう。強い願いを持ち、最初に本体から抜け出したのは彼。私は彼より32年も後に抜け出したの。私たちに性別はないけど、彼は男、私は女の姿をとっている。元の情報がないから、私たちは好きな形を取ることができたの」
「じゃあ、老人にも幼児にもなれるってことか」
納得していると、バニラは右手を差し出した。
よく見ると彼女の手は先ほどまで弾力のある肌だったのに、今では血管の浮き出た皺だらけの腕になっていた。
「すぐに戻すこともできる。変幻自在。でも、どんなに姿が違っても、結局は同じ。私は……彼と同じ、人為的魂の持ち主で、決して、人間にはなれない」
「人間に、なりたいのか?」
「違う。それは彼の望み。あくまで例え」
ならば、彼女の望みは何なのだろうか。
バニラは《ナイトメア》は《悪夢》ではなく《願い》だと言った。
なら、この夢にはバニラの《願い》が隠されているはずだ。
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