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「……そっか」
数秒間、バニラは鏡に触れたまま突っ立っていたが、そう呟いて、鏡から手を離した。
そして、再び鏡に触れ、今度は愛しそうに優しく撫でた。
怯えなんて、もうすでに消えている。
「何か分かった?バニラ」
「うん。私は、矛盾してた」
「矛盾?」
「そう。私の願いは二つあった。彼と一緒にいたいことと、彼から離れたいこと」
相対する願いだ。
片方を叶えれば、片方が叶わない。
けれど、どちらかは叶う。
離れるか、近付くか。
その二択なのだから……。
「私、矛盾してるから……気付かなかったの。両方叶えたかったから」
「そんなの、無理だろ」
「……うん。でも、幸せを感じたかった。ねぇ、どうして私たち《ナイトメア》がピエロの格好をしてるか、分かる?」
バニラはこちらを振り向いて、寂しそうに微笑んだ。
涙で瞳が輝いているせいか、とても綺麗な笑顔だった。
「笑いたいから……笑わせたいから……。幸せに、なりたいからなのよ」
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