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僕は何も言えなかった。
頬を伝い落ちる涙を拭うこともできなかった。
それほど彼女の姿は美しかったのだ。
「私たちはツインドールだから、ずっと一緒だった。むしろ、二つ揃っていないと価値がなかった。だけど、私は不満なんてなかった。彼と一緒にいることが、多分幸せだった。その頃はまだ人形だったから、よく分からないけど……」
バニラはその小さな掌で目をこすって、涙を拭いた。
その姿が妙に子供らしく、僕は自然と笑っていた。
「彼は私の唯一の家族。唯一の仲間。私の存在を認識できる唯一の存在。彼は、鏡なの」
「ナイトメアが、鏡?」
「そう。姿もそっくりだし、彼がいることで私は自分の存在を認識できる。私は、ここにいてもいいのだ、と」
「あいつがいなくても、存在していいに決まっているだろ」
「そうじゃない。人間だってそう。自分と同じ存在がいれば心強い。だから、私は彼を守っていた。彼のためじゃない。自分のために」
目はすっかり赤くなっていた。
バニラは頬に引っ付いた長い髪を煩わしそうに払いながら、目を伏せた。
口調は相変わらず淡々としているが、僕には彼女の言葉に色が付き始めた気がしたのだ。
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