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もともと、私と海夢はただの探偵と依頼人という間柄だった。
三ヶ月前、海夢は『兄を捜して欲しい』という失踪事件の依頼が舞い込み、私はその調査をした。
しかし、事件の結末はその海夢の兄、姫田公平(ひめた こうへい)は殺害されていた。
公平が勤めていたプレスタンツァホテルの上司に当たる山本が公平を殺したのだ。
動機は山本が麻薬の取引をしていた最中、その現場を公平に目撃され、自首を迫られたからというくだらない理由が事件の結末だ。
この事件はマスコミにも大きく取り上げられ、今や一流ホテルといわれていたプレスタンツァホテルも底を付いた。
事件解決後、海夢はわざわざ、内定をもらった会社まで蹴って、宇都宮探偵事務所の助手として欲しいと志望したわけだ。
あの時は、今や当然のように横にいる海夢もまだ高校3年生で、学校帰りに毎日この事務所の行き来を繰り返していた。
正直、始めは私も海夢が助手として働くなど、半信半疑なことだったが、今では簡単な書類整理やスケジュール管理、電話応対などを全て任せている。
若いさのせいか、経験のなさは否めないが、吸収の早さには長けている。
ただ、来客に出すコーヒーの砂糖の量が半端ではなく『宇都宮探偵事務所のコーヒーは甘い』という変な噂が広がっていると知り合いの警部から聞いてしまった。
他にも屈託のない笑顔と明るさのせいで、変なファンまで付き、海夢は『宇都宮探偵事務所の看板娘』という呼び名が付いたという噂も最近、耳にした。
どっちにしろ、今この事務所には海夢の存在は大きいということは紛れもない事実だ。
まあ、本人に言えば、調子に乗るので黙っておくが……。
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