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「お前も気付いてたんなら、そう言うなりメモ渡すなりしろよな! 全く……」
「ちょ! 高嶋さん、おつゆが飛んでますって!!」
「何言ってんだ! 饂飩なんてものは、つゆ飛ばしながら啜り上げて食うのが、旨い食い方なんだよ!!」
「いや、そうじゃなくて……」
今、高嶋は芹沢を連れて、近くのうどん屋に来ていた。事情聴取が、あのネズミ男の乱入によって中断された為、時間が出来たのだ。そこで、鍋焼き饂飩を諦め切れずにいた高嶋は、芹沢を引き連れてうどん屋に赴いたのだった。
本来なら、落ち着いて味わいながら食べたいところだ。しかし、古河達がいつ戻ってくるか判らない今、こうやって話をしながらの慌ただしい食事になるのは、仕方がない事だろう。
古河から室井の事情聴取を頼まれた手前、供述書をもう少し実のあるものにしておかなければ、後でどんな目に合わされるか判ったものじゃない。芹沢もそれを判っていたので、嫌な顔もせず、高嶋に付いて来たのだ。
あの後、得た情報――岡菜々子(おか ななこ)からではあるが――から、室井侑が有名なアーティストで、特に女性ではあるが、幅広い年齢層から支持されている事、あのネズミ男は彼のマネージャーだろう事を知った。しかし、その情報は芹沢も持っていたもので、それを後から聞かされた高嶋は、つい芹沢を責めるような口調になってしまったのだ。
芹沢はポケットからハンカチを取り出しながら、
「だって、目の前にそんな有名人がいるなんて思わないじゃないですか。それも僕らの会社にですよ? だから最初は、似てるかなぁ……程度だったんです。それが確信に変わったのは、あのマネージャーが来てからなんですから」
弁解気味にそう言うと、高嶋の“おつゆ”の飛んだ場所を拭き始めた。
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