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蛇口を捻る。
熱い湯が、放射状に開いた小さな穴から迸(ほとば)しる。
柔らかく滑らかな液体が、白い湯気と共に迸しる。
湯気が充満し、視界の効かなくなったタイル張りの部屋で、人影が小さく踞(うずくま)っていた。
俯いた頭に降り注いだ湯水は、滑らかな皮膚を伝わって抱え込んだ足からタイルへと流れていく。
彼か彼女か……その人物の哀しみを内包して、汚れの無かった水流は、目には見えない穢れを携えて、排水口へと吸い込まれていった。
頬を伝うのは湯水なのか、それとも涙か。
全てを洗い流すかのように、シャワーの音がいつまでも流れていた。
……――――キュ
蛇口を閉める音がすると、辺りを静寂が包み込む。
ドアが開き、湯気に包まれた人影が現れた。湯気は薄まりながら部屋を流れていき、揺れ動くカーテンから外気に混ざっていく。
全裸の美しい肢体は、窓から舞い込んでくる風花など気にもならないのか、白い息を吐きながら外を眺めていた。
どれ程の間、そうしていただろう?
身体を湿らせていた水滴は乾き、立ち上っていた湯気もとうに失せていた。
ただ、白い気体だけが、鼻と口から漏れ出ている。
全てが凍り付いたかのように動きを止めている中で、漸くその人物が動きを見せた。
体温を無くしてしまった肌に衣服を纏い、生気を失った唇に色を差す。
そして、虚ろな瞳には何も映す事なく、寒々とした部屋を後にした。
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