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「それで?」
高嶋恭一は、どちらかといえば強面(こわもて)の顔の眉間に、くっきりと皺を寄せて尋ねた。
しかし、彼の前にうなだれて座る人物は、答えるどころか顔を上げる気配すら無い。
高嶋は机の上で両手の指先を合わせると、目を瞑って息を一つ吐く。自身の感情を抑える為だろうか。それから、ゆっくりと目を開くと、
「あなたは、“人を殺した”と言ってここに来られたんですよね?」
確認するように、目の前の人物に視線を送った。
その言葉に、肩が微かに上下する。しかし、それでも顔を上げようとしない人物を、高嶋は観察し始めた。
歳は20代前半。
身長は180センチの高嶋よりは低いだろう。椅子に座っている為、正解な高さまでは判らないが。
身体は細いが、がりがりという訳ではなさそうだ。がっちりした体格の高嶋と比べると痩せて見えるが、そこそこ筋肉も付いているだろう。
顔は、俯いてはっきりとは判らない。しかし先程、部屋に入ってきた高嶋に、彼はちらりとだが視線を送ってきた。その時、高嶋が見たのは、くしゃくしゃの栗色の髪に半ば隠れた、不安げな色を湛えた綺麗な瞳と、端正に整った顔立ちだった。
要するに、女にもてるだろう外見をしている。
そして高嶋は、彼を何処かで見た事があるような気がしていた。だが、それが何処なのか思い出せない。
もどかしく思いながらも、この非協力的な容疑者の、事情聴取を進めていたのだ。
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