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何の反応も示さない男性に、どうしたものかと頭を悩ませる。暖簾に腕押しとはこういう状況を言うのだろう。高嶋は溜め息を一つ吐いた。
すると、同時にお腹の虫が抗議の声を上げる。その音はかなり大きいもので、男性にも勿論聞こえたのだろう。その口元が少し緩んだのが、高嶋の視界に映った。
高嶋の顔はみるみる赤くなっていく。頬をかきながら咳払いしてごまかすのだが、強面の顔に似合わないその行動に、男性はくすくすと笑い始めた。
しかし、そこにノックの音が響き、男性はまた黙って俯いてしまう。扉が開くと、先程の婦警がコーヒーを持って入ってきた。婦警は二人の顔を交互に見ると、何も言わずに部屋を出ていった。
高嶋はその視線に何か含みを感じながらも、自分のすべき事柄に集中する事にした。
とりあえずは、今、目の前に置かれたばかりコーヒーだ。それに手を伸ばすと、男性がじっと見ているのが分かる。
それでも何事もなかったかのように、澄ました顔でコーヒーカップを口に運んだ――つもりだった。
「あちちちちちっ!!!」
思った以上に熱いコーヒーに唇を焼き、慌ててソーサーに戻す。
堪え切れなくなったのか、はたまた予想通りの結果だったのか、男性はとうとう、大きな声で笑い出した。
壁際の席で、芹沢も笑いを堪えているのが、その気配で判る。
高嶋は刑事の威厳も吹っ飛び、ただ黙って座っていた。
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