出会い~入社式~

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4月1日 新宿某ホテル。 すっかり社会人顔で、本人達はバッチリ着こなしているつもりで、 でもまったく着こなせていないスーツに身を固めた男女が、 周りを伺いながら、静かに席についている。 ここは、とある中堅建設会社の入社式の会場。 バブルがはじけ、連日就職難の文字が新聞の中で躍る中、 ここに座る男女は厳しい就職難を経て、無事職にありつけた面々。 男37名、女5名。 建設会社特有なのか、女性社員が極端に少ない。 短大を無事卒業し、いよいよ今日から社会人。 女性5人のうちの1人、取手早苗は、ワクワクしていた。 憧れの都内OLライフ。 「この同期の中に、私の将来の旦那様がいたりして…。」 そんなことを考えながら、同期の面々をさりげなくチェックしている。 長く小難しい社長の挨拶も、右から左。 総務部のうすらハゲのおじさんが、入社の諸々の手続きの説明をし始めた。 「これは、しっかり聞いておこう。」 早苗はペンをとり始めた。 財形貯蓄? …貯金は大切。 入っておこう。 持株会? …なんだ、それ。 株かぁ…。 女だし、寿退社するだろうし、これは入らなくていいや。 組合費? えぇ!?毎月お給料から引かれるの? 手取りが減っちゃうじゃない…。 そんなコトを考えている間に、手続きは淡々と進む。
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