第①語り 晶との馴れ初め~其之壱~

2/2
前へ
/251ページ
次へ
「不束者(ふつつかもの)で御座いますが、何卒宜しく御願い致します」 彼女は、晶はそう言って深々と頭を下げた。 そうすると晶の、腰まであるストレートヘアーがさらりと揺れて、質素な作りの衣服が衣擦れの音をさせる。 ふんわりと甘い香りが、ほのかに立ち上って僕の鼻腔をくすぐる。 年の頃、十代後半から、二十代前半。 不安そうに上目使いで、僕の顔を見上げる。 そして見詰めている。 一重瞼(ひとえまぶた)の切れ長の瞳。 思わず、ぽおっとした。 頬が上気してほんのりと赤くなった感触を今でも まだ覚えている。 「あ。や。その。こ、ここちらこと、や、こちらひそ、やや、こたらこそ!」 すっかり舞い上がっていたのは僕の方だったか。 晶が、ぱああっと明るい表情になる。「……人好さん」うっとりと僕の顔に見とれる。 両の手を組み合わせて、うっすら涙まで浮かべていた。「良かった……」 彼女は僕なんかには勿体ない位の良く出来たお嬢さんだったよ。 容姿も端麗だし性格も素直。 少々ドジでおっちょこちょい、学習能力に欠ける所があって落ち込みやすい面はあったが。 「私、頑張ります。人好さんのお役に立てるよう誠心誠意尽くして参ります」敢えて。 敢えて一つだけ問題点を挙げるとしたら。 それは晶が幽霊だという事だろう。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加