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「不束者(ふつつかもの)で御座いますが、何卒宜しく御願い致します」
彼女は、晶はそう言って深々と頭を下げた。
そうすると晶の、腰まであるストレートヘアーがさらりと揺れて、質素な作りの衣服が衣擦れの音をさせる。
ふんわりと甘い香りが、ほのかに立ち上って僕の鼻腔をくすぐる。
年の頃、十代後半から、二十代前半。
不安そうに上目使いで、僕の顔を見上げる。
そして見詰めている。
一重瞼(ひとえまぶた)の切れ長の瞳。
思わず、ぽおっとした。
頬が上気してほんのりと赤くなった感触を今でも まだ覚えている。
「あ。や。その。こ、ここちらこと、や、こちらひそ、やや、こたらこそ!」
すっかり舞い上がっていたのは僕の方だったか。
晶が、ぱああっと明るい表情になる。「……人好さん」うっとりと僕の顔に見とれる。
両の手を組み合わせて、うっすら涙まで浮かべていた。「良かった……」
彼女は僕なんかには勿体ない位の良く出来たお嬢さんだったよ。
容姿も端麗だし性格も素直。
少々ドジでおっちょこちょい、学習能力に欠ける所があって落ち込みやすい面はあったが。
「私、頑張ります。人好さんのお役に立てるよう誠心誠意尽くして参ります」敢えて。
敢えて一つだけ問題点を挙げるとしたら。
それは晶が幽霊だという事だろう。
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