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アダージョ
今となってはひどく曖昧な記憶の底に、夜の静寂に今にも掻き消えてしまいそうな、スーパーの看板がある。ところどころ消えた電飾の文字は、辛うじてこう読める。
「福田商店~FUKUDA」
ブーンと気の滅入るような音をたてて闇夜に浮かぶ誘蛾灯。自販機に薄ぼんやりと照らし出された、いつのものだか定かでないタバコのポスター。暗がりに溶けた雨ざらしのベンチ。
仄暗い記憶の沼底から、店は徐々にその姿を現し始める。当時の形を再現しようと、生き物のように蠢きながら。
あの場所が、悪夢の始まりだった。
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