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粉雪が舞い散る本牧埠頭に早朝。女性の水死体が上がる。
横浜中央警察署捜査刑事課の林冲太郎は、いち早く現場に駆け付ける。
長身痩躯の林は、鋭い眼光を水死体に向ける。
「警部。身元が分かりました」
部下の刑事の報告によると、昨夜、ベイブリッジに乗り捨てられた軽自動車に残された免許証から、水死体の女性とは、同一人物と分かった。
死体の女性は、菊川早苗と言う三十六歳の横浜市内に住む主婦だった。
「自殺ですね」
「先入観は駄目だぜ」
林は、強い口調で部下に言う。
軽自動車に残された遺書から、自殺と思われたが、死体を解剖した東横大学法医学教室教授の呉学から、菊川早苗が、生前は覚醒剤の常習者だったと知らされる。
「大物が出て来るかも知れないな」
横浜中央署署長、宗方公明は、林からの報告を聞いて、読んでいた週刊漫画雑誌を閉じて声を弾ませる。
「署長。何を期待してるんですか。今回は出番なしですよ」
「ブラックエンゼルは出番なしか」
「署長は漫画の読みすぎです」
林は、同年代でキャリア組の宗方に呆れながら、署長室を後にする。
横浜中央警察署々長の宗方の漫画オタクぶりは、警察内でも有名で出世欲も無く、青臭い正義感の変人で通っていた。
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