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「取り敢えず…ついてこいよ」
「…うん」
中は埃が積もって、歩く度に埃が舞い、ギシギシと踏み鳴らす音が聞こえる。
トウキはドアノブに手をかけて部屋の中へと入っていった。ラナもそれに続く。
広い部屋で、トウキは大きな椅子の埃を適当に払うと、座るように促した。
ラナはこくんと頷くと、静かに腰を下ろす。
トウキはシャッとカーテンを引き、部屋へ光を注ぎ込む。
光の筋の中で、埃がゆらゆらと舞っている。
トウキは埃に咳き込みながらカーテンを止めた。
そんなトウキの様子に、ラナはクスクスと笑みを溢す。
トウキはムッとした表情でラナを見ると、笑うなよと少し拗ねたような口調で言った。
「…あのさ」
ギシ、とトウキが一歩近づきながら今までとは一変、切なそうな顔をした。
「何?」
ラナはそんなトウキに柔らかい笑みを浮かべながら、訊ねる。
何で、笑う?
自分を拐ってきた人物を前にして、何故笑う?
トウキはそう思いながら、ラナの前まで歩いてくると言いづらそうな顔をして口を開いた。
「いいのかよ」
「え?」
「だから、その…。婚約者、なんだろ」
婚約者ということは、お互いを好きだということだろう。なのに、いいのか?
自分はその婚約者を、殺そうとしているというのに。
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