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目の前の少女は、フッと自嘲的な笑みを浮かべた。
悲しみ、諦念。それが混じった、不思議な表情だった。
「婚約者、ね。シロト様は、そう言うけど…私にとってあの人は」
そこで言葉を止めると、ラナは俯く。
シロトは、ラナにとって主であり婚約者。事実そうなのだが、ラナはそれを心から受け入れたことなど一度だってなかった。
ラナに、シロトを受け入れる理由などない。
受け入れない理由なら、
「仇だから」
ある。
今から、八年前。
殺風景な街に、殺風景な家。殺風景な衣服に食事。それでも少女は幸せだった。
「ラナぁ~。今日の夕飯当ててみな?」
「うん、とね…食パン?」
「ブー! 今日はね、ハンバーグだよ。奮発しちゃった」
「ほんとう!?」
「ま、たまにはね!」
大好きな母と一緒にいられれば、それで良かったから。
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