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毎日が、幸せだった。
豪華な食事も、可愛らしい衣服もなかったけれど。だけど、大好きな母と過ごす毎日が、当たり前の日常が大好きだった。
ずっと、続くと思ってた。大好きな人と過ごす毎日が、明日、明後日と続くのだと、信じていた。
「いつも我慢させてたからねぇ。少しくらいなら罰も当たらないわよ」
「うんっ! ね、私もお手伝いしていい?」
目をキラキラさせながら訊ねると、母親はにっこりと笑ってお願いしますとおどけてみせた。
少女は嬉しそうに笑って母親の手を握る。
母親もまた嬉しそうに手を握り返し、家に入ろうと歩き出した時だった。
街に似合わない、真っ黒な車が、道のど真ん中を走ってくるのが見えた。
それはどう見ても高級車で、貧困なこの街からすれば嫌味に取れなくもなかった。
「…あれは」
母親が、眉間に皺を寄せる。車に乗っていたのは男と少年だった。
親子なのだろう、顔がよく似ている。
軈て車が止まり、中から出てきた少年はキョロキョロと辺りを見回した。
「…きったねー街!」
その言葉に街の人々は一瞬だけ少年を睨むが、すぐに視線を逸らした。
この少年の家が権力者であり退魔師でもあるが故に逆らえないのだ。
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