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「お母さん」
不安げに見上げる少女に、母親は柔らかく笑いあやすように大丈夫、と言った。
男は冷めた目でその様子を眺め、残念だと言いながら懐へ手を入れる。
「なら、こうする他あるまい」
銃声が、三発。
「……っ」
「お母さんっ!」
ガクン、と母親は膝を折り、地面に俯せに倒れた。茶色い砂利の地面がみるみる赤く染まっていく。
ゴボッ、と妙な咳をすると大量の血がまた地面を赤く汚した。
「お母さん、お母さんっ!」
「…ラ、ナ」
ゆるゆると力無さげに手を伸ばし少女の頬に触れる。
少女はぼろぼろと涙を溢しながらその手を強く握り締めた。
母親の目がじわりと滲んで、瞳に映り込む少女がゆらゆらと揺れている。
「ご、め…。きょ、ハンバー…グ、むり、そ…」
「ハンバーグなんかいいっ! 食パンでも何でもいい、がまんするっ! だから、だからっ」
透明な雫が、地面へと落ちてゆく。
赤い血と、透明な雫が、混ざり合うかのように血濡れた地面へ涙は落ちて。
悲痛な少女の嗚咽が激しくなる度、母親は泣きそうな顔でただ謝るばかりだった。
「いなくなっちゃいやだよ…!」
「ご、めん。ごめん、ラナ」
すうっと涙が頬を伝い透明な筋を作る。
まるで糸が切れたみたいに、母親の手が、頭が地に落ちて。
訳もわからず、泣き叫んだ。
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