いらない運命

18/18

186人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
沈黙が、二人を包む。 「ねえ」 それを破ったのは、ラナだった。笑みを浮かべながらトウキを見上げ、問う。 「私、幸せだと思う?」 トウキは何も言えなかった。 母親を奪われ、その奪った本人達の従者にされ。そして、婚約者へと。 余りに残酷で、そして振り回されて。奪われるばかりで、与えられたものなど一切無い。 「こうなることが、運命だったのなら。もう私は運命なんて、いらないよ」 願いが、叶うのなら。 そんな幻想を、ありもしないとわかっていながら望んだ。何てことはない。ただ、幸せが欲しかったんだ。 奪われたもの全部が戻ってきたのなら、どんなに幸せだったろう。 「過去も辛い。今も辛い。なのにどうして未来が幸せなんだと思えるんだろうね」 過去の私が信じていた幸せな未来は、辛い今。 何年経っても、私は幸せになれない。 まるで鎖に囚われているかのように。 「だって大切なものが、無いんだもん」 絆は、もう断ち切れてしまった。 この世界で、ぽつんと自分だけが別に浮いているような感覚。 「運命なんて、いらないよ。私はもう、流される運命は嫌だ」 だから。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

186人が本棚に入れています
本棚に追加