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沈黙が、二人を包む。
「ねえ」
それを破ったのは、ラナだった。笑みを浮かべながらトウキを見上げ、問う。
「私、幸せだと思う?」
トウキは何も言えなかった。
母親を奪われ、その奪った本人達の従者にされ。そして、婚約者へと。
余りに残酷で、そして振り回されて。奪われるばかりで、与えられたものなど一切無い。
「こうなることが、運命だったのなら。もう私は運命なんて、いらないよ」
願いが、叶うのなら。
そんな幻想を、ありもしないとわかっていながら望んだ。何てことはない。ただ、幸せが欲しかったんだ。
奪われたもの全部が戻ってきたのなら、どんなに幸せだったろう。
「過去も辛い。今も辛い。なのにどうして未来が幸せなんだと思えるんだろうね」
過去の私が信じていた幸せな未来は、辛い今。
何年経っても、私は幸せになれない。
まるで鎖に囚われているかのように。
「だって大切なものが、無いんだもん」
絆は、もう断ち切れてしまった。
この世界で、ぽつんと自分だけが別に浮いているような感覚。
「運命なんて、いらないよ。私はもう、流される運命は嫌だ」
だから。
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