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切なそうな瞳。
強くない、睨んでもいない。それなのに、トウキはまるで縛り付けられたかのように、ラナから目を逸らせなかった。
ふと伸びてきた手が、トウキの手を包み込む。
自分よりもずっと小さくて柔らかくて頼りない手。
その手が、自分の手をやんわりと握り、何故だかはわからないが、ドクンと何か脈打つのを感じた。
広い部屋の中で、お互い言葉も交わさず、ただ視線が交差するばかりで。
「だから、ね。シロト様を、殺さないで欲しい」
その言葉に、トウキは目を見開いた。
何で? 何でそうなる?
殺せばいい。全てを奪った諸悪の根源など殺してしまえばいい。
何だかんだで、アイツに惚れたのか? いや、違う。そんな顔じゃ、なかった。
「…トウキ君、優しいから」
にこり、と力ない笑みが酷く心をざわつかせる。
彼女の言葉が理解出来ず、トウキは黙ったままただラナを見詰めた。
優しい? 俺が? 違うだろ。優しい奴は、殺しなんかしないだろ。
それに何より、理由になってない。
「きっとトウキ君は、奪ったらきっと苦しむと思う。それにね。私、トウキ君に奪う側になって欲しくないよ」
こんなに、優しい人なのに。
そう言って、ラナはトウキの手を額に当てた。
トウキは、そんなラナをなんとも言えない表情で見て、軈て嘲笑を浮かべた。
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