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「…何だ、それ」
優しい? 馬鹿言うな。そんな言葉で、俺は簡単に丸め込まれたりしない。
「お前、わかってんのか? 俺は人間じゃない」
軽く振り払えば、その小さな手はいとも簡単に放れた。
言葉でなら幾らでも吐ける。好きじゃなくても好きだと言える。そう、幾らでも塗り固めることが出来るんだ。
それを教えてくれたのはお前等だろう。
「優しい? そんな言葉で俺が騙せるとでも?」
「騙すなんてっ…!」
「違うのか? お前等の得意技だろ? 思ってもないことを言って信用させて突き落とす」
トウキは立ち尽くすラナを見下した笑みで射抜く。
所詮人間なんて嘘と虚構の塊。嘘の笑顔を貼り付けて、嘘の言葉を吐いて。それに気を許せばつけこまれる。
ギシ、と床の音が聞こえ、ラナが一歩踏み出したのだと気付く。
瞳一杯に涙を溜めて、溢さないように気丈に振る舞いながら、ゆっくりと近付いてくる。
触れてしまえば壊れてしまいそうだ、とふとそんなことを考えた。
「トウキ君」
名を呼ぶ。
会って間もないはずのその人の声が、やけに胸一杯に染み渡るように感じた。
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