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「トウキ君はトウキ君で、トウキ君しかいないんだよ。ここにいる、唯一人しかいないトウキ君がとてつもなく、優しい」
そんな、君が。
ラナは柔らかく、微笑む。全てを包み込むような、温かな笑み。
「苦しまないわけ、ないよ」
まだ会って然程経っていない、それでもラナはそう思った。
トウキを真っ直ぐ見据えて、だからね、と言葉を紡ぐ。
「私を、信じて? 私は絶対、裏切らないから」
その言葉に、トウキは一瞬戸惑いの表情を浮かべた。
だが、すぐに顔を歪ませ、力任せにラナの両肩を掴んだ。ラナはその痛みに顔をしかめると、悲しそうに激昂するトウキを見詰めることしか出来なかった。
「信じろ、だと…? その言葉が、一番信じられないんだよ」
ギリ、と指先に力がこもる。
「うっ…ト、ウキ君」
悩ましげなその瞳が微かに揺れているような気がして。
ラナは、どうしていいかわからずただ立ち尽くした。
「そうやって…信じろ、だとか約束だとか…」
するすると口をついて出る、誘惑の言葉。
その言葉が持つ意味など、本当はないだろうに。
その誘惑に乗って、懐柔されて。そして後に気付くんだ。
その言葉は、陥れるだけのものでしかないのだと。
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