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「……!」
唇が、触れるか触れないかの距離。
不意にトウキは何かを察知し厳しい表情になる。
「…トウキ君?」
「来たぜ…。退魔師が」
「っ!」
シロトだとすぐにわかった。身を翻し、部屋を出ていこうとするトウキを、ラナは腕を掴み止める。
「駄目だよ…! 殺しちゃ、駄目…。奪ったら、駄目…。トウキ君には、お母さんを奪った人みたいになって欲しくないよ…!」
強くもない力で、必死に止めようとする彼女に、トウキは苦笑した。
「…もう、死んでんだよな」
「…え?」
いきなりの言葉に、ラナはきょとんとした表情で固まる。
そんなラナに、トウキはぐしゃぐしゃと頭を撫でてやると、明後日の方を見ながら言った。
「…俺を封印した奴とか、俺を騙した奴とか。皆死んだんだよな」
「…うん」
詳しいことは知らないが、何となく、裏切られて封印されたことだけはわかる。
ラナは俯きながら相槌を打った。
「シロトを殺す理由、もうねぇんだよな」
「っ! トウキ君!」
ぱっ、と顔を綻ばせたラナに、トウキは優しく微笑んだ。
「お前が、いてくれるんだろ?」
側に…。
「うん!」
「なら、シロトにゃお引き取り願おうか。お前を置いて」
ギィ…と扉の開く音が一階から聞こえた。
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