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ラナの悲痛な叫びに、トウキは口を開いた。
心配するな、大したことない――。
そう言葉をかけようとした。
だが、口から溢れたのは言葉ではなく、ゴボッと妙な咳とバタバタと何か液体が床に滴ってゆく音だった。
ズリュッとシロトが剣を引き抜いた。
剣を突き刺された腹は止めどなく血が溢れ、自らを赤く染めていく。
「トウキ君っ! シロト様っ、もうやめてください!」
ラナがトウキに駆け寄り、そっと肩を抱きながら眼前のシロトに懇願するように叫んだ。
シロトはそれを見て、ギリッと歯軋りをし思い切りラナを打ち付けた。
「うあ!」
力なくよろけるラナを、シロトは厳しい目で一瞥してトウキに向け剣を向ける。
「ラナ、帰ろう。待ってろ、今この魔人を殺すから」
「やめてっ!!」
ラナはトウキを庇うように抱き締める。
トウキは、霞む視界と意識の中でぼんやりとラナの心音を聞いていた。
とても速い。
「トウキ君、死んじゃダメだよ」
ぎゅうっと強くもない力が籠る。
カタカタと震える腕は、とてつもなく弱々しく酷く非力で。
そんな彼女に護られている自分は何だ?
こんな小さくて弱い彼女を何故自分は……。
重い体にむち打ち、トウキはゆっくりとラナから離れた。
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