護るから、だから

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温かいのに、青ざめていく顔。胸に突き刺さったナイフが、やけに非現実なものに見えた。 「ラナ……? 嘘だろ……?」 呼び掛けても、名前を呼び返してはくれない。 目も開かない。握る手が冷たくならないように握り締める。熱が伝わるようにただ祈りながら。 「ラナ!」 「……ト、がはっ!」 微かに開いた唇が名を紡ごうとするも、遮るように吐血してしまう。 トウキは、何度も何度も名前を呼ぶ。呼んでも呼んでも、ラナはぐったりして、動かなかった。 「ラナ、ラナ……!! お前がいなくなったら、俺はどうすればいい!! 俺は、もう……お前以外に、生きる理由がないんだ……!!」 ボタボタと透明な雫が止めどなくラナの頬へと落ちては筋を作る。 隠しきれない嗚咽を漏らしながら、トウキはひたすらにラナを呼び続けた。 「じ、自業自得だ……」 そんなトウキの耳に、シロトの震える声が聞こえる。 トウキがピタリと体の動きを止め、シロトの言葉を漏らさずに聞いていた。 それに気付いているのかいないのか、シロトは堰を切ったように喋り続ける。 「俺の所有物の癖に! 勝手なことをするから! 俺の! 思い通りにならないから! だからあの日母親が死んだ! そして自分自身も死んだ! 全てそいつが悪いんだっ! 俺は悪くな――」 「黙れ」 トウキの低く怒りに満ちた声が、響き渡る……。
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