護るから、だから

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シロトはドォン、と壁に背を強かに打ち付ける。 「がっ!」 「……」 顔を歪めるシロトに、トウキはニヤリと笑みを浮かべる。手にべっとりと付いた自らの血をべろりと舐め、シロトに歩み寄った。 「く、来るなっ!」 背に壁を押し付け、強張った表情でシロトは叫ぶ。もう近寄るな、と。 今までの優越感などどこにもなく、ただ目の前に恐怖し竦み上がるだけであった。 「しね」 どす黒い魔力が宿った手を翳す。 シロトを見下ろす眼光は鋭く歪み、口元は弧を描く。 楽しそうに、笑っていた。 人をいたぶることが。 人を傷付けることが。 人を、殺すのが。 楽しくて仕方無い、残忍な“魔人”が、ここに今、いた。 「だ、め」 もう声など届かない暗い闇に沈んでいたトウキの意識。 不意に聞こえた、少女の蚊の鳴くような弱く小さな声が引き戻す。 (ラナ……?) 「……」 シロトの僅か三センチ程の所で制止したトウキはゆっくりと、ラナへと視線を向ける。 シロトは腰を抜かしたまま恐怖を刻んだ表情を浮かべていた。 「だ、めだよ。殺し、たら、だめ……。やさしい、ト、キく……ん、が、うばったら、だめ」 ズルッ、とナイフを引き抜く。栓になって血を塞いでいたナイフが抜け、血が溢れ出した。
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