186人が本棚に入れています
本棚に追加
シロトはドォン、と壁に背を強かに打ち付ける。
「がっ!」
「……」
顔を歪めるシロトに、トウキはニヤリと笑みを浮かべる。手にべっとりと付いた自らの血をべろりと舐め、シロトに歩み寄った。
「く、来るなっ!」
背に壁を押し付け、強張った表情でシロトは叫ぶ。もう近寄るな、と。
今までの優越感などどこにもなく、ただ目の前に恐怖し竦み上がるだけであった。
「しね」
どす黒い魔力が宿った手を翳す。
シロトを見下ろす眼光は鋭く歪み、口元は弧を描く。
楽しそうに、笑っていた。
人をいたぶることが。
人を傷付けることが。
人を、殺すのが。
楽しくて仕方無い、残忍な“魔人”が、ここに今、いた。
「だ、め」
もう声など届かない暗い闇に沈んでいたトウキの意識。
不意に聞こえた、少女の蚊の鳴くような弱く小さな声が引き戻す。
(ラナ……?)
「……」
シロトの僅か三センチ程の所で制止したトウキはゆっくりと、ラナへと視線を向ける。
シロトは腰を抜かしたまま恐怖を刻んだ表情を浮かべていた。
「だ、めだよ。殺し、たら、だめ……。やさしい、ト、キく……ん、が、うばったら、だめ」
ズルッ、とナイフを引き抜く。栓になって血を塞いでいたナイフが抜け、血が溢れ出した。
最初のコメントを投稿しよう!