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「この女。返してほしけりゃ館に来い。場所はわかってんだろ」
しゅたっと距離を取り、不敵な笑みを浮かべる。
ラナはトウキの首に腕を回したまま顔を真っ赤にさせていた。手を放すタイミングがわからず固まったままでいるしか出来なかったからである。
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかねぇさ」
待ってるぜ、そう言うとラナを強く抱え自らの作った穴から飛び出した。
物凄い速さで、目的地へと駆ける。
ラナは振り落とされないよう強くしがみつく。
「あ、の…、え、と」
「トウキ」
口ごもるラナに、トウキは名前がわからないと思ったのか名乗る。
ラナは暫く迷い、トウキ君、と小さく呼び掛ける。
「わ、私…」
「お前にはわりーけど。俺アイツを殺す」
ラナに目を向けず前を見据えたままトウキが強く言った。
チリチリと殺気を醸し出しながら、トウキは忌々しげに舌打ちする。
「私も、殺すの?」
その問いに、トウキは驚いて口をつぐむ。
その台詞には恐怖など微塵もなく、本当に、ただすらりと滑り落ちるように言葉が出てきたのだ。
怖くないのか?
そう思いながら、何も言わずにいると、フッと小さく笑みを溢すのがわかった。
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