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「ねぇ」
仁はつまらなそうに読書をしていた。
文字を追っていた目線を止め、静かに私たちに向けた。
「私たちのこと、分かる?」
「…」
「私だよ。最上由奈(もがみ ゆな)。ユンナって呼び始めたのは仁だったよね?」
「…」
「私は?麻生未来(あそう みくる)。クルミって呼び出したのもあんただったわ」
「…」
仁は何も言わない。
私もクルミも困り果てていた。
「何か言えよ」
しびれを切らした正人が苛立ちを隠しもせずに、低い声で言葉を発した。
そこでようやく仁は発言したが、それは《仁らしい》言葉ではなかった。
「あんたは自己紹介しないわけ?初対面に失礼だと思わねぇの?」
「初対面…だと?」
「ちょっと、まさ…―」
「ユンナ、ちょっと黙ってろ。おい、仁。久しぶりの再会にその態度はねぇだろ」
「再会?覚えてない。お前、誰だよ」
冗談だ。
冗談であってほしいと思った。
質の悪い冗談でもいいから、一言「嘘だよ」と言ってほしかった。
そしたら、蹴り一発で許すのに…そんな言葉は聴こえてこなかった。
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