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数分後。
『疲れたー!』
「何回リピートしてんのよ」
クルミは呆れ半分にそう言った。
「感想は?」
正人がクルミに訊いた。
「あんたはピアノが雑すぎるのよ。せっかくのユンナの演奏を壊さないで」
「何だと!?」
「でも、正人って上手いよね!私は正人のピアノ、凄く好きよ!」
フォローのように言ったが本音だ。
すると、正人は真っ赤になって「お…おぅ」と生返事を返した。
「ピアノが好き、なのよ?」
「クルミ…黙ってろよ、そこは」
クルミが悪戯っぽく言い、その言葉に正人は落胆する。
昔はこの風景の中に仁もいた。
けれど今は…。
《覚えてない》
“《約束》さえも?本当に?”
「ユンナ?」
「…え?何?」
「どうしたの?」
さっきまで言い争っていた二人が、心配そうな顔をしている。
いくら親友だからって、こんな顔をさせてはいけない。
「何でもないよ」
なるだけ笑って言ったつもりだが、クルミは私を抱きしめて「大丈夫…また、昔みたいになれるから…」と言った。
《覚えてない》と言われて寂しいのは私だけじゃない。
クルミも、正人だって寂しいに決まっている。
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