―第2楽章―

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帰宅後。 私は鞄から、ある楽譜を取り出した。 手書きで、題名のない楽譜。 昔に仁にもらったものだ。 一枚目の右上には仁のサインがある。 私たちはこの曲を完成させるという約束をした。 そして、現に私たちは完成させているはずなのだ。 けれど、仁は《覚えてない》。 “…完成…しているよね?” もちろん、この《完成》というのは《演奏者としての完成》を意味している。 ピッチも正確、記号もタイミングを間違えず、テンポも速すぎず、遅すぎず…。 もちろん、作曲者の意図を考えて心情込めるのも忘れない。 むしろ、それが癖になっている。 “本当に…覚えてないの?” また涙が出てきた。 私は楽譜を抱きしめて、その場にうずくまってしまった。 そして、私の中で《どうして忘れてしまったの!?》と仁を責める言葉と、《本当は完成してないんじゃないの?》と自分を疑う言葉が混ざりあっていった。
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