―第3楽章―

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音楽室で一人、バイオリンを弾いていると、しばらくしてから二人が来た。 「早かったのね」 「二人もね」 「その曲…仁の曲ね」 「…うん」 十年間引き続けた曲だ。 分からない方がおかしいだろう。 「私も持ってきてるわ。実を言うと…毎日持ってきてた」 「…俺も」 「クルミたちも?私もよ」 それを聞いた瞬間、三人で苦笑した。 「それにしても、変な曲だよな」 正人は鞄からピアノ用のあの楽譜を出した。 「練習記号はA~Zまで細かくついてるし、何より中途半端」 その通りだ。 通常、場面を区切る練習記号が多い。 しかも、区間が短かったり長かったりとまちまちなのだ。 「私的にAで終わった方が綺麗だと思うんだけどな」 クルミは物足りなげに言った。 「俺はMとTの部分は要ると思う。流れ的にTを先に弾いて、Mの転調部で対比させるとかさ」 正人がそこまで言うと、私たちは同時にため息をついた。 私たちが編集してもダメなのだ。 これは仁の曲だから、まず、彼に完成形を聴かせるべきだろう。 「でも、しっくりこないのよね」 クルミの呟きに思わず私は頷いた。 それに、私は《約束だよ》と言った後の《見つけてね》という言葉が気になって頭から離れないのだ。
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