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「…何か弾こうか?」
重い空気は苦手らしい正人は、しびれを切らして音楽室の楽譜を物色し始めた。
「じゃあ、空気を読んでしっとり系の曲を弾いてよ」
「オッケー」
そう言って彼が選んだのは…―。
「…《悲愴》ね?」
「空気読みすぎ」
「いいだろうが」
「意味考えて弾きなさいよ。《悲愴》って、悲しくていたたましいことじゃないの?」
演奏は止まり、一層空気は重くなってしまった。
仲間が一人いないだけ。
しかも、再会できたがちゃんと再会できていない仲間が一人いない。
ただそれだけで、こんなにも空気が重い。
それだけ仁の存在は大きかった。
遠くでの活躍を聴くだけでも嬉しくなる。
なのに、彼は私たちを忘れてしまっている。
「こんなんじゃあ何もできねぇよ」
「…教室に、帰りましょうか」
「賛成」
どうしたら元に戻るのだろう。
私は音楽を楽しみたい…。
例えそれがめちゃくちゃな曲でも…。
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