―第3楽章―

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「やべっ、楽譜片付けるの忘れてた」 正人がそれに気づいたのは教室に着いてからだ。 「音楽の担当教師、片さないとうるさいんだよな」 「前は一週間ピアノ使用禁止だったわね」 「説教もだ。片してくる」 正人が席を立ったとき、私は「私も行く」と思わず言っていた。 「いいよ。一人で行けるし」 「歩きたいのよ」 「何か悩んでんの?」 「え?」 「何年来の付き合いだと思ってんだよ?クルミも来いよ」 「言われなくても、ユンナが行くなら行くわよ」 結局私たちは三人で音楽室に向かうことになった。 廊下を歩きながら、私はあの気になっていた記憶について話した。 「《約束だよ》の辺りは俺も覚えてるけど…《見つけてね》って…何を?クルミは覚えてるか?」 「全くよ。正人と一緒」 「ジャングルジムの周辺で言ってた気がするの…―」 「ユンナ、ストップ」 突然、正人に言葉を遮られた。 よく耳を澄ませば音が聞こえてきた。 ピアノの音だ。 しかも、この曲は最近聞いた曲。 「…《悲愴》。しかも…上手い」 「正人もそう思う?私、誰が弾いているかまで想像しちゃったんだけど…」 「奇遇だな。俺も…」 気づけば駆け出していた。 こんな上手いピアノを誰が弾いているかなんて、私たちにしてみれば愚問だった。
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