540人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「やべっ、楽譜片付けるの忘れてた」
正人がそれに気づいたのは教室に着いてからだ。
「音楽の担当教師、片さないとうるさいんだよな」
「前は一週間ピアノ使用禁止だったわね」
「説教もだ。片してくる」
正人が席を立ったとき、私は「私も行く」と思わず言っていた。
「いいよ。一人で行けるし」
「歩きたいのよ」
「何か悩んでんの?」
「え?」
「何年来の付き合いだと思ってんだよ?クルミも来いよ」
「言われなくても、ユンナが行くなら行くわよ」
結局私たちは三人で音楽室に向かうことになった。
廊下を歩きながら、私はあの気になっていた記憶について話した。
「《約束だよ》の辺りは俺も覚えてるけど…《見つけてね》って…何を?クルミは覚えてるか?」
「全くよ。正人と一緒」
「ジャングルジムの周辺で言ってた気がするの…―」
「ユンナ、ストップ」
突然、正人に言葉を遮られた。
よく耳を澄ませば音が聞こえてきた。
ピアノの音だ。
しかも、この曲は最近聞いた曲。
「…《悲愴》。しかも…上手い」
「正人もそう思う?私、誰が弾いているかまで想像しちゃったんだけど…」
「奇遇だな。俺も…」
気づけば駆け出していた。
こんな上手いピアノを誰が弾いているかなんて、私たちにしてみれば愚問だった。
最初のコメントを投稿しよう!