―第3楽章―

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音楽室の前に真っ先に着いた正人は乱暴にドアを開けた。 そこには予想通り、ピアノを弾いている仁の姿があった。 「この楽譜、君の?」 仁はこちらをチラリとも見ずにそう言った。 「違う」 彼のピアノの音は昔から変わらない。 正確な音の連続がメロディーとして流れていく。 「俺らのことを忘れても、ピアノのことは忘れないんだな…」 正人はピアノの横まで行くと挑戦的な態度を取った。 「この間コンクールで弾いたんだ。覚えているのは当たり前だろ」 それだけ言うと、彼は演奏をやめて立ち上がった。 「じゃあ、俺は帰るから。弾きたいならお好きにどうぞ」 「待ってよ」 帰ろうとする仁を止めたのは、私でも正人でもなく、クルミだった。 クルミは出ていこうとする仁の腕を掴んで、少し高い位置にある彼の目を睨んでいた。 「何?」 「聴きたいことがあるの。私たちは、あなたの《覚えてない》という発言に納得してないわ」 仁の袖にシワが寄る。 クルミは視線をそらさない。
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