―第3楽章―

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「《覚えてない》って、どういう意味なの?」 「そのままの意味だよ」 面倒臭そうにそう言う態度が気に入らないのか、クルミは一層強く睨んで、「じゃあ、質問を変えるわ」と言った。 「どうして《知らない》と表現しなかったの?忘れている自覚があるのよね?」 「それがどうした。あんたに何の関係があるんだよ」 「大有りよ。聴きたいことはまだあるわ。向こうで成功している仁が、どうして日本に帰ってきたの?家族の転勤なんて理由では納得できないわ」 仁は一つため息をついた。 私たちはひたすら、彼が答えるのを待った。 「約束を守るために帰ってきたんだ」 「誰との?どんな約束?」 「…覚えてない」 私たちには心当たりがあった。 曲を完成させて、それを仁に聞かせることだ。 「本当に、覚えてないの?」 「…あぁ」 「ふざけんなよ!」 突然正人は仁に掴みかかった。 私もクルミも、思わず彼らから離れることしかできなかった。
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