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教室に戻ったが、正人の姿と彼の鞄がない。
友達に聞いたところ早退したらしい。
「大丈夫かな、正人」
「電話してみたら?携帯は持ってるでしょ?」
「でも、出ないかも…」
「じゃあ家にかけちゃえば?お母さんくらいいるわよ」
私はクルミに促されて電話した。
「もしもし」
〈はいはい、この番号はユンちゃんね〉
「おばさん、正人は帰ってますか?」
〈帰ってるけど…〉
〈あぁ!くそっ!〉
それは電話越しに聴こえた。
乱暴なピアノの音と、怒号。
正人の声だ。
〈ずっとあんな調子なの〉
「…分かりました。帰りに寄りますね」
あんな音、電話越しでも聴きたくない。
ますます心配になってきた。
「ユンナ、落ち着いて!今は授業を優先させよう。あいつは馬鹿だけど、弱くない。頭だってすぐに冷えるはずよ」
冷静にクルミは言うが、本当は落ち着いていない。
それは雰囲気で分かった。
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