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学校からの帰り、私たちは正人の家へ向かった。
夕日は傾いていて、公園からの景色は絶景だった。
「…ユンナ、見てよ。あれ」
クルミが指差したのは、工事予定の看板。
「この公園も消えちゃうんだ…」
「しかも、急ね。工事、明日からですって」
寂しいことばかり積み重なる。
私たちは歩みを止めず、正人の家に行った。
「くそ!何で出来ねぇんだよ!!」
玄関でまず聴こえたのは怒号。
次に乱暴な《悲愴》。
そして、ミスタッチ。
私たちは慌てて彼の部屋まで行き、中へ入った。
「正人、落ち着きなさいよ!」
「うるせぇよ!悔しいんだよ!何なんだよ!俺たちを忘れたやつの方が、何であんな綺麗な音を出せんだよ!思い通りにならない!俺の一音なんてイライラする!」
正人は取り乱していた。
そんな彼を、私は見ていられなかった。
「《音を楽しむ》…いつも、正人が言ってたよね。楽しい?眉間に皺寄せて、何が楽しいの?弾き手も聴き手も楽しめないものは、音楽じゃなくて雑音よ!」
正人は何も言わない。
悔し涙を流していた。
ただそれだけだった。
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