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「未完成だと?」
正人は椅子から立ち上がり、昨日よりは抑えぎみに言った。
「こんなめちゃくちゃな曲、聞いたことない」
「嘘つけ!大体、演奏中に立つなんてのはマナー違反だ!演奏者に対して失礼にも程がある!」
「なら、お前は作曲者に対して失礼だ。お前らの演奏を聞く限り、完成してるとは思えない」
けれど、彼は確かに反応した。
「…仁が知らないわけないわ。これは、幼かった仁が作った曲だもの」
驚いた顔は想定内だ。
今さら不思議がることはない。
「それに、未完成と分かるなら、原曲を知っているはずよね?現にAの部分では反応したじゃない」
「…確かに、最初の部分は聞いたことがあった。けれど、あの不自然なフェルマータからは聞いたことがない」
確かに、BからCまではでたらめなメロディーが続く。
「ともかく、未完成の曲なんて聴けない」
分からない。
何をどうすればいいのだろう。
「仁、待って!」
「ユンナ、どこに行くんだ!」
「個人的に話したいことがあるの!二人は待ってて!」
私は彼の背中を慌てて追いかけた。
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