―第5楽章―

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「未完成だと?」 正人は椅子から立ち上がり、昨日よりは抑えぎみに言った。 「こんなめちゃくちゃな曲、聞いたことない」 「嘘つけ!大体、演奏中に立つなんてのはマナー違反だ!演奏者に対して失礼にも程がある!」 「なら、お前は作曲者に対して失礼だ。お前らの演奏を聞く限り、完成してるとは思えない」 けれど、彼は確かに反応した。 「…仁が知らないわけないわ。これは、幼かった仁が作った曲だもの」 驚いた顔は想定内だ。 今さら不思議がることはない。 「それに、未完成と分かるなら、原曲を知っているはずよね?現にAの部分では反応したじゃない」 「…確かに、最初の部分は聞いたことがあった。けれど、あの不自然なフェルマータからは聞いたことがない」 確かに、BからCまではでたらめなメロディーが続く。 「ともかく、未完成の曲なんて聴けない」 分からない。 何をどうすればいいのだろう。 「仁、待って!」 「ユンナ、どこに行くんだ!」 「個人的に話したいことがあるの!二人は待ってて!」 私は彼の背中を慌てて追いかけた。
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