―最終楽章―

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どのくらい時間が経っただろうか。 「…あ!」 ようやく最初の文字がうっすら出てきた。 《T》の文字だ。 「この辺りね!」 私はその周辺を慎重に削っていった。 次に出てきたのは《A》。 その次は《D》。 《A》、《I》、《M》。 そして、最後に《A》。 「…これで、終わり?」 「《TADAIMA》…《ただいま》?」 私たちは一斉に仁を見たが、彼は「俺…アホか」と呟いていた。 「他に無かったの?」 「当時の俺に訊け」 「当時の仁に一番近い人に聴いてるんだけど」 「…アホだな、俺」 「愚問だね」 キーワードがまさか《ただいま》だなんて、と思うと力が一気に抜けてしまった。 「よっぽど帰ってきたかったのね」 「だろうな」 「でもさ、このキーワード、結局何に使うんだ?」 そこは考えてなかった。 「正人にしてはいいところ突いたわね」 「クルミ…嫌み以外のことは言えねぇのか?」 「使い方なら覚えてる」 そう言ったのは仁だった。
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