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静かだ。
そして、暗い。
想像出来るだろうか。
光の入ってこない夜に、揺れ動く水面のみが光り、青く見える風景。
実際、夜かなんて知れない。
実際、存在する場所かなんて知れない。
ただ立ち尽くす女の前に、暗い世界でその水面だけが青く光っているのだ。
音は聞こえない。
だが、ぴちょん…と鳴っているかのように、水面は揺れ、静寂に戻る。
音がしたかのように、また揺れ、また静まる。
それが何度も繰り返されるだけ。
揺れる水面は揺れる度に強く光り、女の興味を誘った。
女は光り、揺れる水面に向かって歩き出す。
あの水面がなければ、狭いかも広いかも解らぬこの永遠と暗い世界の中で、女は気がおかしくなっていただろう。
救われた、そう当たり前のように感じて、薄く笑みを浮かべた。
女はここが解らない。
なぜここにいるのか。
なぜこんなに暗いのか。
ここはどこなのか。
広いのか、狭いのか。
人はいるのか。
あの水面は何なのか。
なぜ音がしないのか。
あらゆる情報は女に与えられていない。
ただ目の前に見える水面と、地面が存在していると言うことしか解っていないのだ。
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