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気付くと、水面は目の前にあった。
高さは女の腹の辺り。
濡れた感覚はない。
だが、女の腹の前で光る水面は揺れ動いていた。
光り、揺れる部分の水面だけが女の前に浮いている。
不思議な光景だった。
女もそれを不思議に思った。
湖や池ではないのだ。
揺れる水面だけだったのだ。
それだけしか、そもそもなかったのだ。
女から一気に緊張が引いた。
体は一気に冷え、汗が冷たくなり、心臓はだんだんと静かになっていく。
全てが正常に戻っていく気がした。
女は疲れきった手で水面に触れてみた。
水面は揺れ、音がしたかのようだった。
しばらく水面を見つめていると、濃厚な甘い香りがしてきた。
どこから来る香りなのかはわからない。
ただ、ここで初めて風を感じ、ヒュー…という音を聞いた。
やはり、これは不思議な水面なんだ…。
女はそう思って水面を覗き込む。
すると、奥の方に何かがゆらついているのが見えた。
あれは何だ…?
女は水の中に両手を入れた。
濡れた感じはしなかった。
暖かい空気に包まれたような、そんな感覚がした。
ただ暖かい。
湿っぽい感じや、空気の流れる感じはしない。
ただ暖かかった。
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