風の道 蒼海の森

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女は水の奥にあるものに向かって必死に手を伸ばす。 もう少しで顔も入ってしまうと言ったところで、両手は何かに触れた。 きっとさっきから見えているものに触れたんだ。 女はそう思い、両手でそれを掴んだ。 そのまま水から徐々に引きずり出していく。 いざ水から出ようとなったとき、それは水面から出てくるなり光り出した。 女は反射的に目をつぶり、顔をそれからそらした。 もうそれの全体は水から出ているはず。 見ようとするが、強く光っていて瞼を開けられない。 ぐっとこらえていると、光りが弱まって行くのに気がついた。 だんだんそれは輝きをなくしていき、瞼を閉じていてもわかった光りは消えた。 女はそっと目を開ける。 そして、嬉しそうにそれを見た。 「ぃやああぁぁぁ!!」 女が掴んだそれは、全身しわだらけの鬼の子のミイラだった。 カタカタ、ピクピクと微かに動いている。 女はそれをどこかに放り投げた。 ゴトッ…とミイラが女の近くに転がる。 いつの間にか水面は消えていた。 「なんなの…」 女は初めてしゃべれることに気付いた。 震えながらミイラを見つめていると、ミイラの動きがピタリと止まった。 その瞬間、ミイラは一瞬にして姿を変えた。 スラッと、黒い布をまとった人間に。 フードまでついていて、女から顔はうかがえない。 顔が見えない。 女がそう思ったとき、黒の人間はそっとフードをどけた。 「―!!」 そこにいたのは、女自身だった。  
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