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「あ…」
あった。
やっと見つけた。
莉禾は喜ぶ暇もなく水面に向かって勢いよく走り出した。
自分でも何故あの水面を目指すのかわからない。
わからないけど、足は止まらなかった。
莉禾は水面に向かって手を伸ばす。
走っている勢いを殺さずに水面に触れた。
その瞬間、一瞬にして世界が変わった。
風が吹いている。
見渡せば、後ろに森が、目の前に草原が広がっていた。
さっきまで、ただ真っ暗な世界にいたのに、これはどういうことだろう。
暖かい、落ち着きのある場所に世界が変わってしまっていた。
水面に触れた瞬間、ここに来た。
まるで水面の中に引きずられてここに来たかのようだった。
また風が吹いた。
甘い香りがする。
この風は、覚えがある。
今朝、水面を覗いたときに、どこからか感じた風だった。
「ここの風だったのか」
莉禾は自分が水面の中に引きずられて来たのだと確信した。
それから、周りの様子をうかがって歩き出した。
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