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人気のない階段を駆け上がり、いつもの屋上の扉を荒々しく開けて、もたれ掛かる様に閉める。
そして、そのまま崩れ落ちるように座り込み、荒い息のまま、震える手で煙草を引っ張り出し、ジッポで火をつけて煙を吸い込む。
「ゴホッゴホッ!!あぁ…」
思いっきり吸い込んだせいで煙が気管に入り、噎せかえる。
それでも、2回3回と吸い込んでいくウチに心が落ち着いていく気がした。
空は蒼く澄み切っていて、雲は殆ど無い。
昼になれば暖かい風も吹くようになり、居心地の良い季節になりつつあった。
「まあ良いか…」
特に意味があって言った言葉では無い。
ただ、その言葉で幾分か気持ちも楽になっていく気がした。
ーガチャガチャ!!
誰かが扉を開けようと押してくる音。
「うおっ!!あ、わりぃわりぃ」
扉にもたれ掛かっていた明人は慌て扉を離れる。
勿論、現れたのは由綺だった。
「あ、また煙草吸ってる…」
可愛らしい顔で非難するような表情を浮かべる彼女を見て、明人は思わず苦笑するしかなかった。
それから10分程、何を喋るでも無く、2人は扉にもたれ掛かりながら座っていた。
明人はただ前を見つめ、由綺は恥ずかしそうに目を泳がせている。
それだけの事だったが、彼は非常に居心地良さを感じていた。
「ねぇ、九条君。その…条件って何?」
しかし、楽しい時間という物はそう長くは続かない。
その言葉を聞いた瞬間、明人は時が止まったような感覚を覚えた。
こうなるように仕向けたのは自分で、最終的にはこうなる事ぐらい解っていたにも関わらず、明人は非常に嫌な気分になっていた。
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