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彼女は何も言わずにマリファナと明人の顔を見比べている。
今の彼女は八方塞がりといった所か―、チラリと顔を覗き見れば、顔色を悪くして瞳に涙を潤ませていた。
明人はその表情を見てられず、視線を逸らした。
(これで終わりだ。もう何処かに行ってくれよ…)
そう願う明人の思いとは裏腹に、彼女はなかなかその場を動こうとしない。
人生を壊すマリファナと明人と関われなくなる事とを天秤に掛けて、未だに決心が着かないようだ。
何でそこまでして俺なんかに関わりたいのかー、幼少から愛を感じる事が出来ずに育った明人には、ほとほと理解出来なかった。
明人は手に持っていたジッポを投げる。
それはカタンッと音をたて、由綺の足元に落ちた。
「…吸い方解んねぇ訳じゃねぇだろ?サッサと決めてくんねぇか?」
ズキズキと痛む胸が、明人の言葉を冷たい物に変えていく。
身勝手だと解っていたが、彼はイライラして仕方がなかった。
早く居なくなれば良いのにという彼の思いとは裏腹に、彼女が動く事は無い。
それによって、明人の怒りが最高潮に達しようとした時、彼女は呟いた。
「…ぅよ」
「あっ?」
彼女の言葉が聞き取れず、明人は聞き返した。
―いや、あまりに想定外の事態に理解が追い付かなかったのかもしれない。
「私、吸うから!!」
由綺は意を決したように手にあったマリファナをくわえ、ジッポを拾い、その蓋を開いた。
一瞬、呆気に取られていた明人であったが言葉の意味を理解した瞬間に体が動いていた。
火の着き掛けたマリファナの先端を指で潰し、火を消す。
ジュッと嫌な音がして指先が、レア感じに焼けたがそんな事はどうでも良かった。
火を消したマリファナをぶんどりグシャグシャにした彼は、気づけば怒鳴り声を挙げていた。
「お前、馬鹿じゃねぇの!!これ一本でお前の人生滅茶苦茶になんだぞ!!なんで、そこまですんだよ!!」
理不尽な事は解っていたが、彼女の行動が理解出来ない明人からすれば当然の事だった。
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